#005 スポ育特集(後編)スポ育講師の選手にインタビューしました!
2021/03/18
混ざり合う社会を目指して、子どもの心に種をまく。
スポ育のやりがいは? 授業でのこだわりは?
日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)が提供する「スポ育」。
「視覚を遮断したスポーツ体験を通して、障がいや相手を思いやることを子どもたち自身が考え・気づくことができる、体験型ダイバーシティプログラム」です。
※スポ育の詳細はこちらの記事をお読みください。
後編では、「スポ育」の講師として小中学校・高校へ頻繁に出向いている、寺西一選手(ブラインドサッカー選手・全盲)と髙山ゆずりさん(ファシリテーター・晴眼)にインタビューをしました。日頃から「スポ育」を通してたくさんの子どもたちと向き合っている二人の、子どもたちに対する思いや、「スポ育」におけるこだわりを語ってもらいました。
とにかくおもしろい授業をすること
寺西一選手(全盲・ブラインドサッカー男子日本代表強化指定選手・株式会社GA technologies)
ーー「スポ育」のプログラムが始まって10年以上が経過しました。寺西選手はプログラム開始当初から講師として関わっていますが、どのような思いでスポ育を担当していますか?
子どもたちが、次に障がい者に出会ったときに、偏見を持たず対等な関係を築くことができる。「スポ育」がそのきっかけになってくれれば、と思って日々の授業に取り組んでいます。
ーー寺西選手は全盲ですが、授業をするうえで心がけていることはありますか?
授業に参加してくれている子どもたちが、安全に、かつ楽しく、プログラムに取り組んでもらえるように心がけています。動き方や注意すべきポイントの説明には、特に神経を遣っていますね。分かりやすい言葉で伝えることは当然ながら、お手本として、私自身が子どもたちからどう見えるのかにも気を配っています。 子どもたちにとって、どの距離・角度の立ち位置で、どれくらいのスピードで動けば理解しやすいか。10年以上スポ育に携わってきましたが、まだまだ試行錯誤しています。
ーー寺西選手にとって「スポ育」のやりがいは何ですか?
授業から時間が経ってからブラインドサッカーに戻ってきてくれる人がいることです。ブラインドサッカーの試合会場に、授業に参加してくれた子どもたちが来てくれて、声をかけてくれることがあります。授業の時だけでなく、ずっとブラインドサッカーを応援してくれているのだと思うと、とてもうれしいです。
それと、私の所属クラブ(パペレシアル品川)でゴールキーパーをしている選手は、10年前に「スポ育」に参加してくれていた学生なんです。彼が大学生になってから再会して、チームに加わってくれました。学生時代に私たちが行った「スポ育」が原体験になって、彼ら・彼女らが障がいについて考えるきっかけになってくれているのかなと感じます。
ーー寺西選手が「スポ育」をするうえで最も大切にしていることは何ですか?
とにかくおもしろい授業をすることを心がけています。 やはり、障がいに関する体験といえば、どうしても「障がいを持って生活するのは大変だ」や「目が見えないなんて怖い」という感想を抱くことが一般的です。 そこを「おもしろい!」と思ってもらえるように、プログラムを構成し、子どもたちの興味を惹くような問いかけをすることを大切にしています。
ーー障がい体験には珍しい”おもしろさ”が「スポ育」の特徴の一つですね。「おもしろい!」と思ってもらうために、具体的にどんな工夫をしているのでしょうか?
プログラム構成に関しては、競争形式のワークを取り入れて、子どもたち自身で作戦を考えることができるようなプログラムを選んで行っています。
また、子どもたちには、体験を通して何を感じたか・何が大切だったか・何が分かったかを問いかけています。その場で私から答えは聞き出さず、授業が終わった後にじっくり考えてもらいたいと思っています。
ーー最後に皆さんに知ってほしいことはありますか?
JBFAから派遣する講師の人数やスケジュール調整の問題もあり、まだまだ「スポ育」をお届けできる地域は限定的です。これまでも関東エリアと関西エリアでの実施がほとんどでした。
そんななか、新型コロナウイルス感染拡大もあり、オンライン版のスポ育を開発しました。 オンライン版であれば、地域を問わず全国の皆さんに「スポ育」をお届けすることができます。
ご興味を持たれた方、スポ育で訪問することができていない地域の皆様。お気軽にお問い合わせ下さい。 可能な限りリクエストにお応えし、スポ育をお届けします。
スポ育を受けた子どもたちが、混ざり合う社会をつくる一人になってくれれば
髙山ゆずりさん(晴眼・ファシリテーター)
ーー髙山さんは、晴眼のファシリテーター(進行役)として、多くのスポ育の実施現場へ足を運んでいます。どのような思いでスポ育に携わっていますか?
目の前にいる子どもたちが、もっと大きな社会に出た時に「障がい」に対して、フラットな気持ちや正しい知識を持っていてほしいと思っています。スポ育を体験した子どもたちが、ブラインドサッカーを応援してくれること、将来混ざり合う社会をつくる一人になってくれることを信じて、日々「スポ育」に取り組んでいます。
ーー一緒に授業を行う、視覚障がいのある選手との役割分担はどのようにしているのでしょうか?また、授業を進行する中で意識していることはありますか?
晴眼ファシリテーターの大きな役割には、選手の「目になること」があると思っています。「スポ育」は、子どもたちもアイマスクを着けて動くプログラムなので、けがなく安全に進行できるよう目視確認を徹底するのは、私たち晴眼ファシリテーターの役割です。
また、目で見て伝えられる情報を、視覚障がいの選手たちに伝えることも心がけています。音や声だけでは分からない、子どもたちの行動や様子を伝えています。それら全てから感じられるクラスの雰囲気によって、どのように進行していくのがベストかを考えていくので、授業中も常に子どもたちの様子を確認するようにしています。
ーーJBFAは、2019年度に634件の「スポ育」を実施しました。髙山さんも多くの授業に行っていましたが、「スポ育」をするなかで大変だと感じることはありますか?
何度授業をしても、同じクラスは一つもありません。どのクラスも、子どもたちの特性が異なります。大変というわけではないですが、慣れが生まれない仕事だと思っています。
ーー「スポ育」を実施するうえで、髙山さんが大切にしていることは何ですか?
毎回変わるクラスの特性を生かしたプログラムを提供できるように心がけています。例えば、学年・クラスの人数・地域・男女比・・・・・・。他にもたくさんの要素はありますが、要素が変わると、授業の雰囲気は大きく変わります。90分という短い時間ですが、少しでも目の前にいる子どもたちの特徴を掴んで、「スポ育」だけではなく、今後の学校生活にも生かしてもらえるような体験、お話ができるようにと考えながら授業をしています。
また、運動することに苦手意識をもっている子どもたちでも、楽しく授業を終えることができるように気をつけています。私自身もスポーツというジャンルの体験が得意ではなかったので。
ーー髙山さんにとって「スポ育」のやりがいはどんなことですか?
「スポ育」が終わった後に、子どもたちが書いてくれる手紙があります。その日感じたことや驚きを、気持ちを込めて綴ってくれています。それらを読んでいくと、子どもたちが授業をした選手に興味を持ってくれたことや、彼らなりに障がいの捉え方や共生の方法を考えてくれていることが分かって、やりがいを感じますね。
ーー最後に皆さんに知ってほしいことはありますか?
「スポ育」は、直接的なブラインドサッカーの競技活動ではありません。しかし、「スポ育」を受けた子どもたちが、将来混ざり合う社会を作る一人になってくれると信じて活動しています。皆さんのお子さんの学校、スポーツ団体等でも導入をご検討いただければ幸いです。
編集後記
最後までお読みいただき、ありがとうございます。ブラサカマガジン担当の貴戸です。
私自身は、大学時代にブラインドサッカーを初めて体験しました。そのとき講師をしていたのが、今回インタビューしたハジさん(寺西一選手)です。ハジさんは”目が見えないにも関わらず”、俊敏なドリブルや正確なパスを披露していました。それまで視覚障がい者と関わりのなかった私は、ハジさんの姿に衝撃を受けました。その日の体験によって”障がい”に対する考え方が全く変わり、その後出会う視覚障がい者とフラットな関係を築くきっかけとなりました。
JBFAは現在、「スポ育」の実施エリア拡大を目指しています。より多くの小中学生・高校生に「スポ育」を届け、多様な人との出会いを楽しむことができるようになってほしいと願っています。体験の輪を広げることで、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会へ向かっていけると思っています。
皆さまも「スポ育」の応援をお願いいたします。まずはこの記事のシェアから初めていただけますと幸いです!
※JBFAは現在、オンラインでの実施等、新型コロナウイルス感染拡大防止に最大限の注意を払いながら、「スポ育」実施エリア拡大に取り組んでいます。